怪文書

オタクに幸あれ

すさまじきもの2016

 すさまじきもの。

「座席当選アナザーショット・サイン入りポストカード・柱巻きをお譲りいただける方優先」条件つきの譲渡記事。まして、事前のメールではそんな話をまったくしていなかったのに、会場前で「柱巻きとTSC引き換えはあげますけど、座席当選したら権利は返してください」と突然言ってくる者は、いとすさまじ。

「〇〇(キャラクター名やキャスト名)のアナザーショットまたはサイン入りポスカをお譲りいただける方はチケット代いりません」などと書いてあろうものなら、いとわびしく、すさまじ。

 

◆注釈

 「アナザーショット」…最近のテニミュでは、座席番号による抽選が毎公演おこなわれ、当選者には非売品の生写真がプレゼントされる。当選し、生写真を引き取るためには座席番号の書かれたチケットの半券が必要。私たちはこれを「座席当選」「アナザーショット」等と呼んでいる。

「サイン入りポストカード」…テニミュサポーターズクラブ(以下TSC)会員は、テニミュの会場でポストカードを1枚もらえる。そのポストカードのなかに、ランダムでキャストのサイン入りのものがあり、引き当てるとスタッフさんがベルを鳴らしてお祝いしてくれる。

「柱巻き」…テニミュ公演後に配布される紙。渋谷に掲示されていた柱巻き広告と同じデザインのため、「柱巻き」と呼ばれている。

 

 

 すさまじい。

 この夏に何度も目にしたこのようなチケット譲渡・交換の現状に対して、私が抱いた感情を最も適切に表現する言葉は、「すさまじい」だろう。

 もちろん、これまでもそういった条件つき譲渡がなかったわけではない。しかし、この夏は、特に「条件」が目についた。「条件」が提示されていなくても、譲渡を求める側が自ら「半券お返しします、柱巻きもあげます、ですから譲ってください」などとコメントしていることもある。すでに持っている写真やグッズをオマケでつけます、といったオークション状態になっていることもあった。一概に譲る側だけを責められるものではない。

 思い返せば、セカンドシーズンのアナザーショットは、別に写りが良いわけでもない、ロゴが入っているわけでもない、白背景のシンプルな全身ショットだった。チケットがあまり売れていないときに作られた消費者インセンティブ。プレミア感は薄かった。だが、サードシーズンのアナザーショットには枠やロゴがうつっており、セカンドのものに比べても、なんだかとても良いものをもらったような気になる。貰えないよりは貰えたほうが断然嬉しい。

 けれども、だからって、そんなむちゃくちゃな。そんなむちゃくちゃな話があるか。

 

 私はこの夏に、数名からチケットを譲っていただいた。

 そのうちの一人とのやりとりが、冒頭に記したものだ。事前のメールではそんな話をまったくしていなかったのに、会場前で「柱巻きとTSC引き換えはあげますけど、座席当選したら権利は返してください」と言う。さも当然のように。了承はしたが、そのときに感じたもやもやが、2か月経った今でも残っている。どうしてもアナザーショットが欲しいわけではない。けれど、権利を「返せ」というのは何かが違うだろうと。名前や引き取り店名の入っている半券を、個人情報だから出口で返せというなら何の異論もないが、そういった趣旨でもないようだ。その公演では当選しなかったが、外れたことでとても安堵したのを覚えている。こういったやりとりはごく普通なのだろうか。

 しかし、もやもやしたのは一度きりで、他の方とのやりとりはとても穏やかに済んだ。譲渡記事の文面から嗅ぎ分けたのもあるが、「そういう」考えの人ばかりではないらしい。

 

 

 テニミュのチケット定価である6,000円は、舞台を見るために私たちが払う代価だ。また、消費者が「アナザーショット」や「ポストカード」、「柱巻き」を得るのは、供給側から与えられた権利だ。この権利は、6,000円のなかに含まれているはずなのである。

 その権利をめぐって「譲渡する」側と「譲渡していただく」側、消費者同士があれやこれやするのは本当にすさまじいなあと感じさせられる、2016年の夏だった。