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「2.75次元」?――声と音が加えた0.25次元

 『金色のコルダBlue♪Sky First Stage』を観に行きました。テニミュ以外の2.5次元舞台を観るのは初めてで、驚き、考えさせられ、感動することが多く、終演後は鼻をスンスンしながら夜の新宿を歩きました。 

 以下、舞台のネタバレを少し、原作のネタバレを盛大に含みます。

 

 

原作について

 原作は、『金色のコルダ3』という恋愛シミュレーションゲームです。このゲームを2014年にアニメ化したときのタイトルが『金色のコルダBlue♪Sky』で、舞台は、アニメをベースに、原作であるゲームの要素を多く含んだ演出となっていました。原作のタイトルには『3』とありますが、同作の1・2との繋がりは「わかる人はわかって面白い」といった程度です。舞台を観るにあたっては、前作の知識はいっさい必要ありません。

 ストーリーは、室内楽アンサンブルコンテストで全国優勝を目指す高校生たちの青春もの。ゲームでは、女性主人公・小日向かなでを操作し、全国優勝を果たすと同時に意中のキャラクターとの恋愛をすることをが目的です。しかし、舞台版では、攻略対象の一人であった如月響也が主人公となります。ゲーム・アニメと舞台では主人公が異なりますが、特に違和感はありませんでした。逆に、主人公が少年になったことで、少年漫画のような熱さや青くささが強調されて、2.5次元舞台を好む層への受けが良くなったのではないかと思います。

 

舞台のみどころ(ききどころ)

①声

 開演前アナウンスは神南高校の東金・土岐の2人が担当していたのですが、第一声から客席がどよめきました。あまりにも原作の声優さんの声に似ていたからです。谷山紀章さんかと思ったら碕理人さんでした。上田堪大さんは、‘土岐弁’を話していました。2人に限らず、他のキャストも、声や話し方をかなり似せてきている印象を受けました。

 前回の記事では書かなかったのですが、8月のミュージカル講座で松田さんは、観客はキャラクターが原作に近いか近くないかを見ているので、漫画原作の2.5次元舞台において「声はどうでもいい」と明言していました。漫画が原作であれば、その後アニメ化して声がついていても、舞台では声をアニメに似せる必要はないと。アニメはあくまでも原作の派生物のひとつで、舞台より先行していたとしても、アニメと舞台とは同列に扱っても良いだろうと、私も考えています。

 とはいえ、テニミュでも、アニメを参考にしていたり、声優さんにアドバイスをもらったりしているようです。たとえば海堂の声にドスがきいていなかったり、遠山金太郎の声のトーンが低かったりしたら、間違いなく違和感を覚えるでしょう。ですから、ミュージカルでも海堂は低い声で喋り、金太郎はひっくり返らないか心配になるような声を出して叫びます。ただし、それはあくまでもキャラクターのビジュアルや性格から想像できる範囲内での高さや低さ、速さ、訛り等の特徴に留まっています。声のモノマネまでは求められていないのだろうと感じます。日本2.5次元ミュージカル協会代表理事の松田さんも「キャラになり切るというのは、モノマネではないのです。」(*1)と話しています。

 しかし、『コルダ』の原作はゲームです。キャラクターのビジュアルや声、さまざまな情報がほぼ同時にユーザーへ与えられます。観客が‘原作’を大切にしているのならば、2.5次元化にあたり、声や話し方は大きな要素のひとつなのだと思います。特に、女性向け恋愛シミュレーションゲームでは声優さんを売りにしていることが多いですし、声優さんによるイベントを長く続けてきたネオロマンス作品であればなおさらです。

 ネオロマンスのイベントでは、声優さんがキャラクターのコスプレをして出てくることも少なくありません。声優さんとキャラクターが相互に作用した文化があるため、『コルダ』は単なる2次元ではなく、声・音の部分でもう少し厚みのある――たとえば2.25次元と表現できるような――次元にあったのではないかと思います。キャラクターという一人の人間を構成する要素のひとつとして、「声」は必要不可欠とも言えるでしょう。もちろん、単なる声のモノマネではありません。キャラクターらしい喋り方、間の取り方、イントネーションのつけ方、全てを含めての「声」です。舞台版『コルダ』では、原作を2.25次元たらしめていたその「声」を、2.5次元に持ってきていました。

 

②音

 『コルダ』の舞台は生演奏です。2.5次元舞台では録音が主流ですが、『コルダ』原作のテーマは音楽。その一番大切な臨場感を演出できないなら、2.5次元化とは言えません。生演奏は必要不可欠です。生の音楽がない『コルダ』なんて、試合シーンでずっと踊っててテニスの動きを一切しないテニミュみたいなものです。

 ヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロ、トランペット、トロンボーン2人、チューバ、ホルン……演奏シーンの再現はもちろんですが、要所要所のBGMにもクラシックの名曲がたくさん使われています。そのBGMの使い方もすごく良い。キャラクター数人が掛け合いをしているとき、後ろや端で誰か別のキャラクターが楽器を演奏(練習だったり‘ライヴ’だったり)していて、その曲がBGMとして活用されているのです。神南の弾く「死の舞踏」がBGMになってしまうなんて、想像すらできませんでした。でも、しっくりくる。ゲームには常にBGMがあるので、それが自然で、原作に近い演出とも言えます。この音楽も、声と同じく、2次元に厚みを加える0.25次元の部分なのではないでしょうか。

 生の音楽が持つ力は大きく、冒頭のメインテーマ曲が流れたときは鳥肌が立ち、大会シーンではストーリーと相まって涙があふれ、フィナーレの演奏が終了したときには「ブラボー!」と叫んでいました。『コルダ』では、原作中で良い演奏をするとそう言われるので、おそらく舞台版の観客の姿勢として「ブラボー!」は必須だと思います。素晴らしい演奏には拍手と歓声を送ろう。 

 メインテーマをアニメのOP曲である「Wings To Fly」にしたところもすごく良かったと思います。あれが「BLUE SKY BLUE」だったら、さわやか成分が強すぎます。「WTF」は響也にもよく合っていました。

 

 

 如月響也役の前山さんは、取材に対し「お芝居の力で音楽を盛り上げたい」「2.75(次元)くらいの気持ち」(*1)と話しています。2.5次元にプラスされた‘0.25次元’。彼がどういう思いで2.75次元などと表現したのかは推し測ることはできません。しかし私は、もともと2次元の「キャラクター」「ストーリー」プラス0.25次元の「声」「音」を2.5次元に持ってこようとした結果、他の作品よりも0.25次元分多くなってしまった、そして2.75次元が発生したのだと考えています。

 

 上記のような感覚を味わえるので、『コルダ』舞台は原作にふれていなくても楽しいけれど、原作をプレイしていたらもっと楽しいと思います。

Amazon.co.jp: 金色のコルダ3 フルボイス Special (通常版): ゲーム :原作・本編。主人公・小日向かなでを操作し、星奏学院の仲間と全国優勝を目指すストーリー。もちろん他校のキャラクターとも恋愛が可能です。舞台版の主人公である響也の心情もより丁寧に描かれているのでぜひ。

Amazon.co.jp: 金色のコルダ3 AnotherSky feat.至誠館 (通常版): ゲーム :今回の舞台でライバルとなった至誠館高校に焦点をあてたファンディスク。「もしも主人公が星奏学院ではなく至誠館高校に転校していたら……」というifストーリーです。至誠館を全国優勝させることができます。

 

 

 そして、『コルダ』原作および舞台は、『テニスの王子様』「ミュージカル『テニスの王子様』」ファンが非常に受け入れやすい作品だと思います。その理由は下記の3つです。

 

①スポ魂!超文化部

 魂こめたチーム戦。それが『金色のコルダ3』です。

 原作のゲーム発売前、中央線の女性専用車両1両まるごとに『金色のコルダ3』広告が掲示されたことがありました。そのとき、「闘う、奏でる、恋をする」というキャッチフレーズに驚いたのを覚えています。その謳い文句通り『金色のコルダ3』では、ヴァイオリンやピアノなどからイメージされるハイソサエティな雰囲気はやや薄れており、勝ち負けをかけた熱さが前面に出ています。
 物語では、大会の前に学内選抜が行われます。オーケストラ部部員の中から、アンサンブルコンテストに出場するメンバーを選ぶというものです。ひとことで伝わるよう言ってしまえば、校内ランキング戦。転校してきたばかりのかなでと響也は、そこで実力を見せ、元からいた部員を黙らせてアンサンブルメンバーに入るのです。
 そして、無事アンサンブルメンバーに選ばれるとーーレギュラーの座を手に入れることができるとーー大会に出場することができ、東日本大会、全国大会へと話が進んでいきます。 大会では、主人公(主役校)VSライバル校という構図がはっきり描かれます。少年ジャンプでよく見るスポーツ漫画のように。学校ごとにカラーがあってまとまっているので、テニプリに慣れている人は『コルダ』のチーム意識を受け入れやすいと思います。

 さらに舞台版では主人公が思春期と反抗期のかたまりのような少年になったので、前述のとおり恋愛要素は控えめになり、若者たちの闘いが強調されています。若い男の子たちによる熱いチーム戦、みんな好きでしょ?『コルダ3』は、そういう、甲子園や箱根駅伝に類似したジャンルなんです。

 

②観客が存在しても良い

 舞台と客席の関係が、単に「お芝居をする側」と「傍観する側」では、2.5次元舞台の魅力は減ってしまうと思います。しかし、『コルダ』の場合は、観客に役割が与えられています。

 『コルダ』原作では一般市民や生徒の全員名前がついていて、話しかけたり、演奏を聞かせたりできます。モブだけど、名前がついているんです。(参考:【ネタバレしかない】金色のコルダ3 AnotherSky feat. 至誠館 ~モブすら面白い~ : -twilight fantasia- )主要キャラクターは学内どころか街中の至るところで楽器を鳴らしているので、観客はその聴衆として存在していても自然なのです。星奏学院の生徒として、オーケストラ部部員として、山下公園や元町の通行人として、神南のファンとして、大会の観客として存在しても良いのです。神南のライヴシーンでは拍手だけでなく黄色い歓声を求められるのですが、それは舞台だからではなく、原作でそういう場面があるからなんです。

  観客が、「舞台」ではなくその「世界」のモブとして存在しても良い。これはテニミュや、ほかのスポーツものの2.5次元舞台と共通しているので、入りやすいのではないかと思っています。

 

③否めないテニス感

 とりあえず見ればわかります。

 

 でも、彼らは単なる「キャラ」ではなく、ひとりの「人間」として描かれているので、見ればキャラクターの魅力を感じとれるはずです。

 もう本当に、なんでもいいからとにかく観て!面白いから!!!コルステめちゃくちゃ面白いから!!!!至誠館激アツすぎて泣くから!!ブラボーしか言えないから!!!キャラクターによっては魅力が最大限に出し切れてない子もいるんだけど、でも本編響也ルートだからそこはちょっと目をつぶって!!続いたらアナスカとかやるかもしれないし!ね!!オープニングGFGでエンディングAmbitiousなアナスカ至誠館があるかもしれないし!冥加さんも出てないし!天音までやってほしい……函館まで……おねがい……

  

 

 

ニコ生配信決定!!: 音楽劇「金色のコルダBlue♪Sky First Stage」 みんなで観よう。1,600円です。

 

 

(*1)「テニミュ」のオーディションはガチだった! 2.5次元ミュージカルの秘密(後編) | ダ・ヴィンチニュース

(*2)音楽劇「金色のコルダ」生演奏たっぷりで開幕!「2.75次元くらいの気持ち」 - コミックナタリー